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リアシートのドアから車外に出ると、目玉焼きでも作れるんじゃないかというジリジリとした太陽の熱に見舞われた。 今年は例年に無い猛暑。 と、去年も一昨年も言っていたセリフを小洒落たアナウンサーがニュースで言っていたのを思い出した。 いくら8月とはいえ、朝の6時にしては暑すぎる日射しを受け、これから相対する相手に対しての憎しみが更に増した。 その暑さを容赦なく吸収する黒いヴェルサーチのスーツと同じ、黒いBOXのJPSを我妻は口にくわえた。ドライバーズシートから素早く降り、こちら側に回り横に立った河島が180㎝の長身を折り曲げ、拳ダコだらけの節ばった指の手でタバコに火を点けた。 太陽の熱に炙られる身体を冷ますかの如く、落ち着いた溜め息の様に深く長く煙を吐き出した。 タバコの穂先から上がる紫煙の先には、大東信販(ウチ)から300万の貸し金を延滞している小松の住む二階建てのしょぼくれた茶色のアパートが見える。 「行くぞ」 自分と河島に告げ、一口しか吸ってないタバコを地面に弾き捨て歩き出した。朝にお似合いの冷たい風がふっと吹いて、地面に捨てられ火の点いたままのタバコから立ち上る紫煙を揺らした。
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