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「その頭に付いている、黒いものはなんじゃ?」
と聞いてきた。
私がそれにこたえようと口を開く前に、
「何処から来たんですか?」
と若者に尋ねられる。
う、うるさい…。今すぐ、何か意味が分からない単語を発して、逃げ去りたい。
しかし、しょうがないのだ。この村で休むには、彼らの機嫌を損ねてはならない。
「ほらほら。その辺にしなさい」
質問の雨と押し寄せる住民の中、老人の声が響いた。
その声の方から、すぅっと人がはけると花道のような場所から1人年寄りが姿を見せた。その格好と言動から、この人がこの街の長であることが一目で分かる。
すっと、私は頭を下げた。
「貴方が、この村の長ですか?」
老人は伸びる白いひげをなでながら、ゆっくりと頷いた。
「いかにも。おぬしは旅人だな」
「えぇ。しばらくの滞在をお許しください」
「構わない。それより、皆が迷惑をかけた。お疲れだろう、家に招待しよう」
長の言葉に、私は胸に手を当てて安堵した。
街によっては滞在のための対価を求めてくることがある。旅人はたいてい珍しい物を持っているからだ。
にこやかな顔をした長に、私もにこやかに顔を上げて答えた。
「優しい街で良かったです」
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