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砂中の旅
幾度にも折り曲げられた砂の台地が、果てしなく続いている。風によって砂が舞い上がれば、旅人の頬をそっと撫でるのだ。
私の名前は、アイリ。苗字は存在しない。
教会で育てられた私は、両親の名前も顔も知らない。だからといって、私に名前を付けた名付け親の事も、遠い昔の事すぎて、記憶にない。
私は旅人。旅をしている。
砂に足を持っていかれ、進むのにひと苦労する。
悲しく空転するバイクのタイヤに、板を滑り込ませる。暑さとこの作業のせいで、私の体力はかなり奪われていた。既に、限界が近い。
バイクに括り付けてあるタンクを見ると、既に水は底をつきかけていた。
私は重い足を止めると、
「はぁ…ここって、何処何よ」
と小さく呟いた。
何処よと呟いたが、そんなの決まっている。ここは名前の無い砂漠だ。ひょっとしたら、数百年前までは地名があったのかもしれない。けど、その名前に○○砂漠なんて名前は付いていないだろう。
人類が衰退を始めてから、長い年月が経った。
科学文明はとうの昔に消えて無くなった。使える人はごく少数居れども、作れる人は何処にも存在しないだろう。
かくいう私も、その中の一人である。
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