失言

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「おい、そこにいるの、浅井じゃね?」 「あー、マジだ。しかも女の子といる。かわいー」 「退部してから見ねえと思ってたけど女といちゃついてたのかよ。いいご身分だな」 「確かに」  ははは、と馬鹿にしたように笑いながら美空と悠祐の横を通り過ぎていくのは、上級生と思われる四人ほどの男子生徒だ。こちらまで会話がはっきりと聞こえる声の大きさは、間違いなくわざとだった。  美空は気まずい空気も忘れて、キッと彼らをにらんだ。ちょうどこちらを向いていた一人と視線がぶつかったので、美空は抗議の気持ちを込めて精一杯眼差しを尖らせる。  しかし相手はそれを軽く鼻で笑い飛ばすと、あろうことか「あれ、女の子泣いてるじゃんン」などど難癖をつけ始めた。 「……っ、泣いてません!」  潤んだ瞳から一粒だけ目尻に盛り上がっていた雫を美空は慌てて拭った。だが、すでに手遅れだった。 「浅井くん、女の子を泣かせるなんていけないなあ。ただでさえ野球部に迷惑かけてるってのにさ」  聞く者の神経を逆撫でするへらへらとした口調に美空は反感を抱くが、野球部という単語が出てぎくりと身体を強張らせた。彼らに向き直った悠祐の表情には、諦念が滲んでいる。 「君が抜けたせいで今俺ら毎日必死よ。来年はみんなで優勝目指そうとか豪語してたの誰だっけ? なのに(かなめ)のピッチャーが使いものにならなくなっちゃうなんてさあ。無責任だと思わない?」 「…………」 「まただんまりかよ。ふざけやがって。迷惑かけてんだから、謝罪くらいすべきなんじゃねーの?」  甚だしい言いがかりに、美空は思わず悠祐の前に踏み出した。 「や……やめてください! 浅井先輩の、チームメイトだった人……ですよね? 一番、傷ついている人に、よくそんな……」  男の子たちの注目を浴びて、慣れない状況に怯えつつも美空は必死に自身を鼓舞した。  しかしそんな美空の腕を掴んで止めたのは他でもない悠祐だった。振り返った美空に悠祐は首を振る。
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