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「いいから」
「せんぱ……でもっ」
「いいから。俺が悪いんだ」
美空を自分の後ろに引かせると、悠祐は野球部のメンバーに向かって頭を下げた。
「悪かった」
腰を折って謝罪するその姿は、あまりにも潔かった。一瞬にしてその場が静まり返る。
しばしの無音のあとに、かすかな舌打ちの音が聞こえた。真ん中にいた少年が忌々しそうに「行くぞ」と言い捨てて背を向ける。彼がグラウンドに向かって歩き出すと、他の面々も興ざめした様子で場を離れていく。
空気をかき乱すだけかき乱して去っていった彼らが視界から消えると、美空はつい不満をこぼしてしまう。
「どうして……謝っちゃったんですか……」
「そりゃ、迷惑かけたのは、本当だから」
悠祐の素っ気ない返答からは、その気持ちを推し量ることができない。
「でも……浅井先輩が、故意にそうしたわけじゃ、ないです……」
自分が口を挟むべきことではない。けれど、言わずにはいられなかった。
悠祐の顔を見れなくて美空がスカートの裾をいじっていると、横に並ぶ悠祐のかすかな呼吸音が聞こえた。鼻で笑ったのか、それとも諦めのため息なのか。今、悠祐がどんな表情をしているのか、怖くて確認できない。
「そりゃあな。だけど、俺の事情で、他の人にしわ寄せが行ったのは事実だ」
真剣味を帯びたその声音で、美空は先ほどの謝罪が表層的なものでは決してなかったことを知る。
「俺の代わりに投げることになった後輩は特にさ。まさか自分がメインで投げることになるとか思ってなかっただろうし。責任とか、結構……重いから」
悠祐は、心の底から彼らに対して申し訳なく感じているのだった。けれどそれは、なんだかとても、悲しいことのように思えた。
「……仲間だったなら、少しくらい先輩の気持ちを汲んでくれたって……」
故障という不本意な形でマウンドを去ることになった苦悩を、かつての仲間どころか、悠祐自身すらないがしろにしているのではないか。
ハ、とまた息を吐いた音がして、今度は笑ったことがはっきりと分かった。
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