エピローグ

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「おはよ。浅井くんも早朝学習続いてるじゃない?」  出来のよい生徒を褒めるような口調が子供扱いされたようで、悠祐は顔をしかめた。  三年のクラス替えでも悠祐と同じクラスになった竹本は、しっかり者の優等生である。授業中に最も教師からの圧力を受ける席にいて全く崩れぬ余裕の表情は、新しいクラスでも早々に尊敬の眼差しを集めている。  これに対して悠祐は、野球部でエースと呼ばれても、勉強は平均より少し上でしかない。二年までは部活優先だったため、この春までは毎日の勉強習慣すら身に付いていなかった。  それがここに来て、急に真面目に勉強する姿勢を見せているのは、単なる気まぐれからではない。  悠祐はスポーツドクターを目指そうと考えていた。  野球をやめて未練も断ち切り、ぽっかり空いた時間をどうやって埋めようかと考えたとき、その夢は自然と悠祐の心の中に芽生えた。  自分のように望まぬ形で引退する選手を少しでも減らせたら。そんな願いは我ながら単純すぎる思考だったが、それゆえに根強い。  今の成績で医学部はとても、と担任教師に難色を示されて頼ったのが竹本だ。     
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