エピローグ

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 美術部の部長という責任ある仕事を務めながら優秀な成績も維持している彼女は、コンクールの作品制作も並行して進めているらしい。その計画的な有能さは、美空とは違った意味で特別な生徒だった。  そんな竹本の成績を支えているのが朝の自習である。彼女に勧められ、悠祐もこの四月から真似している。今のところ一日も欠かしてはいない。 「まあ、浅井くんは継続しやすいモチベがあるものねえ?」  によによと薄笑いでからかわれて、悠祐は視線を逸らした。 「……悪いかよ」 「別に、いいんじゃない? 勉強は捗ってるんでしょ?」 「……おう」  捗っていないときも、ときどきあるけれど。それは許容範囲のはずだ。 「なら、特に言うことないかな。美空によろしくね」 「……ああ」  悠祐は自席に鞄を置くと、勉強に必要な最低限の参考書と筆記用具だけを持ち出して教室をあとにした。  徐々に増えてきた若葉の美しい緑を渡り廊下から愛でつつ、悠祐は竹本との会話を反芻する。  竹本が美空を下の名前で呼ぶようになったのはいつからだろう。  タイミングは確実に悠祐のほうが先だと思うが、その呼称で美空を呼ぶのは自分だけだと思っていたので少々悔しい。美空にそれだけ親しい友人ができたことは歓迎すべきことだけれど。  自分の狭量さを反省しながら悠祐が美術室の戸を開けると、いつものように先に来ていた美空が物音に気づいて振り返った。     
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