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美空の手を握って勇気づけると、美空は悠祐の真意を計るようにじっと目を合わせたあと、花がほころぶように笑った。
「うん……ありがとう……」
安心しきった曇りない笑顔は、悠祐の胸を温かいもので満たす。
はじめこそ悠祐は、この愛らしく整った顔に一目惚れした。だが今ではむしろその内面に強く惹かれている。
美空の振る舞いは周囲の普通とかけ離れているから、最初は確かに戸惑う。しかし、よく知り合ってみれば美空も美空なりに自分の至らなさに思い悩んでいて、そういう部分は普通の高校生となにひとつ変わらない。
むしろ彼女の不器用さゆえの純粋さや真っ直ぐさは、幼い時代に置き忘れてきた無垢な心を思い起こさせるようで、どこか斜に構えていた自分の在り様を恥じたくなったほどだ。
美空の一番そばにいられる今を、悠祐は幸運だと思っている。
容姿に惹かれて彼女に近付こうとした男は、おそらく悠祐が初めてではない。それでいて誰も美空のそばに残っていないのは、少し変わった美空の言動を誰も理解しようとしなかったからだ。
だが、美空の特別さは美空が望んだものではない。特別扱いされることに、彼女は辟易しているのではないか。
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