愛の日には、苦い薬を……

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「ジェイさんっ」  小雪は足元の悪い雪の中を平気で走ってきて、そのまま慈英に抱き着く。今日も小雪は真っ白な衣装だ。とっさにその羽のような体を抱き寄せると、ひやりと冷たい頬が、慈英の温かい頬に触れる。 「今日も寒いね」  慈英の言葉に、小雪はにっこりと笑みを浮かべる。そっと白い手袋に包まれた手を差し伸べられて、慈英は小さく笑みを浮かべてその手を握った。 「今日はジェイさんのお気に入りのクラブに連れて行ってくれるんでしょ。小雪、ちょっとオシャレしてきたんだから」  手を繋いだままその手を頭の上に上げ、ダンスのターンの様にくるりと回ると、ボアのついた短いフレアのスカートがふわりと浮きあがる。ちらりと見えた白いタイツに包まれた脚線が妙に扇情的で。 「おっ。可愛いね」  と平気な顔で言いながら、なんだかドキッとしてしまう。小雪は自称東北出身で、こっちでは姉の家に居候しながらアルバイトをしている、20歳の女の子。でも見た目は年よりは幼くて見えて、性格は天然で、笑顔が可愛い。肌の色が白くて如何にも雪国出身って感じだ。幼げな表情のせいで綺麗より可愛いの印象が勝っているけれど、実は十分に美人だ。  と慈英は目尻を下げながらそんなことを思っている。 「可愛いでしょ。でも、ジェイさんもカッコいいよ」  そういいながら、ぴとっと頬を慈英の腕に頬を擦り付ける。白ウサギみたいな愛らしさに、ついついメロメロになりそうになる。 「こんなかわいい白ウサギちゃん、頭っから全部、食べたくなっちゃうんだけど?」  俺、狐だからさ。なんて本音交じりで慈英が耳元でささやくと、小雪の白い肌は一気に朱に染まる。 「ジェイさんのエッチ。ヘンタイっ……でも……」  小雪はちらっと慈英の肩ごしに視線を上げて、上目使いに潤んだ瞳で見上げると、小さな小さな声で囁く。 「……ジェイさんだったら、小雪、食べられてもイイかも……」   「…………そっ」  それってどういう意味? なんてこのタイミングで絶対聞けないけど。 (あ。ダメだ……)  男をあっさり悩殺するセリフを吐いた次の瞬間、小雪はぱっと頬を染めて、俯く。その一連の流れに、慈英は軽く脳が沸騰しそうになる。
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