愛の日には、苦い薬を……

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「あっそれなら……」  一緒にこのまま二人きりになれるところに……。と言いかけてふと気づく。これからクラブに行くタイミングで言われたこんなセリフ、真に受けたら痛い目を見ることに。……ってのが定石だけど。 「……ジ、ジェイさん。お店、行こうか」  恥ずかしさを誤魔化すように呟く小雪の台詞に、色々言わなくて大正解、って心の中で確認する。だけど。 (絶対天然小悪魔系だよな。小雪ちゃんって……)  色々と怪しいところのある子だけど、それでもなんだかやっぱりほっとけなくて。なにより可愛すぎる。  だから、もうちょっと知りたい、なんて思ってはいけないことを思ったりして。  ──でも。 「ねえ、知ってる? 俺、秘密を一杯持っているんだけどさ」  明るい声で冗談めかして言った、慈英の言葉に、小雪はふふっと笑みを零す。 「そうなんだ。今度教えてね」  本当の事を教えたら、何と答えるのだろうこの子は。それよりなにより。 「じゃあ、教えてあげる時には、小雪ちゃんの秘密も教えてよね」  慈英の表だけは軽い言葉に、小雪ちゃんが笑う。 「えええ、小雪には秘密なんてないよ~」 「そか。そうだよね」  隠しておきたい秘密なら、隠させてあげるのも男の甲斐性なんだろうか。  ……まあ俺の場合、半分狐だけど。  そして相手の子が、多分、普通の女の子じゃなかったとしても……。  こんな光景を見たら、タヌキと狐の騙し合いやな、と笑いそうな暁月の顔を思い浮かべて思わずしかめっ面をしてしまう。 (けど……やっぱり怪しいよな……)  分ってる。慈英はまだそれでも、つないだ手を離すことが出来ずにいる。胸だってずっとドキドキ切なく鼓動を刻んでいる。寒い雪の中だって、結構心は温かい。 (恋って……結構厄介なもんやねんな)  相手とは力量が違うと分っているから油断もする。だからこんなふわふわした気持ちを楽しんでいる余裕もあるのかもしれない。チクンと胸に刺さる微かな痛みすら、ほんの少し甘美に感じてしまう程度には。
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