愛の日には、苦い薬を……

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**************** 空は久しぶりに星が見えていた。 冬の空は高くて澄んでいて、星が降ってくるみたいに見える。 「小雪ちゃん、外が好きなんだね」  クラブでしばらく喋っていたら、暑くて頭がぼーっとしてきちゃった、と言われ、慈英は小雪を連れて、外に出てきていた。  クラブから少し歩いた先には、目立たない場所に小さな公園があって、二人でベンチに座っている。 「うん、外の方が空気が冷えててキモチイイ」  酒に酔った頬は微かに赤味を帯びている。潤んだ瞳は幼い容貌に対して、年相応に色っぽくて、このギャップにやられるんだよな、と慈英は思っている。 「…………」  ふわり、と肩が心地よい重みで重たくなる。なんだか幸せな重みだ、なんて慈英は思っている。 「ねえ、ジェイさんって親はもういないんだよね。じゃあ、兄弟とかはいるの?」  いきなり尋ねられて、ドキドキした心臓の鼓動を感じながら、慈英は小雪の質問に平気なフリをして答える。 「いるよ。一人だけね。口うるさい兄でさ……」  俺の言葉に小雪ちゃんはふぅっと小さくため息をついた。 「そうか……小雪にも妹がいるんだ。そっか、ジェイさんにはお兄さんがいるんだ。……そっか」 何故か小雪は何度も兄がいるのか、と繰り返してから、小さく笑う。 「……あのね、小雪ね」  そう言いかけて、小雪は顔を上げて、空を見上げる。空は晴れているのにふわりと何処からか雪が舞い落ちて来ている。無意識で慈英はそれに手を伸ばしていた。 「雪……どこから舞ってきているんだろう」  それはまるで花びらのようで、だけどそれを手のひらで捕らえると、すぅっと儚く溶けた。
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