愛の日には、苦い薬を……

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「……あ。ゴメン。なんだった?」  雪に気を取られて、小雪の言葉を止めてしまった事に気付いた慈英は、肩に頭を乗せている小雪の方を少し振り向くようにする。 「……なんでもない。ジェイさんと一緒にいると、温かいなあって……」  その言葉に思わず慈英は頷いてしまう。暖かいとか寒いとか、そんなことを感じない体なのに……。 「あのね、バレンタインデー、一緒に過ごせないや」  ぽつり、と小雪が呟く。 「な、なんで? 他に好きな人がいるの!!!」  咄嗟に肩に頭を乗せていた、小雪を落としかねない勢いで、慈英は小雪を振り向く。 「だって……小雪とバレンタインデー過ごしたら……ジェイさん、もう二度とお兄さんの所に帰れなくなるよ?」  ほとんど小雪の言っているセリフを、慈英は理解していない。 「俺は小雪ちゃんとバレンタイン一緒に過ごしたい。……他の奴と過ごさないでよ」  思わずその手袋越しにでも冷たい手をぎゅっと握る。小さくて可愛くて、華奢な指先が微かに震えている。  頭の端っこで、人間のふりをしている自分と、多分人間じゃない小雪ちゃんとで、何をやっているんだろう、と冷静に突っ込みを入れている自分もいたけれど。 「ね、いいよね?」 「……わかった」  小さく小雪ちゃんがため息をつく。何処か悲しそうに、だけど少しだけ嬉しそうに。
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