愛の日には、苦い薬を……

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そして雪は降り続け、ますます雪は降り積もっていく。積雪はすでに20センチを超えて、テレビでは連日の異常気象を報道し続けている。 「……今日はどこへ行くんや?」  相も変わらず、この寒いのにぞうきんを片手に持った暁月が声を掛けると、慈英はちゃらちゃらっと顔の横で手を振る。 「デート、今日はバレンタインデーだからさ」  上機嫌そうな慈英の顔を見て、暁月は小さくため息をつく。 「またそんな訳の分からんことを言って……」  暁月の言葉に小さく肩を竦めて、慈英は玄関に向かう。暁月はその背中に、そっと形代を一枚だけ送り込んだ。 (まあ、本気で嫌やったら剥すやろ)  仮にも数百年の齢を生きた妖狐だ。気配を感じる事に関してはこっちよりずっと本能的に鋭い。  それでもなぜか、普段と違う、いつも以上にふわふわとした慈英が心配で、それに例の調べている案件の事もある。厄介ごとに巻き込まれる事に掛けては、慈英は横に並ぶものはない。だから……。 「今日は遅くなるかもっ」  振り向いてニヤッと笑う顔は、いつもと変わらない。だけど微かに気配が何か少しだけ違う気がする。 「……気を付けて行ってきよし」  本気で慈英に戦いを挑もうとしたら。多分敵う者はこの世の中にほとんどおるまい。それでも。 「厄介ごとに巻き込まれるのは、心臓に悪いから勘弁したってな……」  もう聞こえない背中に小さな声でぽつりとつぶやくと、暁月は氷のように冷たいぞうきんを持って、床を拭き始めた。
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