愛の日には、苦い薬を……

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「……ごめんね。本当にごめんね……」  ほろりと眦から溢れてくる涙は、凍ってはいなかった。果たして触れたらそれは温かいのか、冷たいのか……。多分自分には確認するすべはないけれど。 (体が凍り付くってこういう感じなのか~)  慈英はほろほろと涙を零している小雪を見続けている。どうやら小雪はあんまり雪女向きの妖ではないらしい。凍らせる相手に対して涙を零す雪女なんて聞いた事がない。 (でも……綺麗だな)  頬から滑り落ちた涙は、きらりと微かな光を集めながら瞬間的に凍って雪のように慈英に落ちてくる。 「いいよ、長い事生きてきたから、そろそろ休みたくなったんだ」  多分今夜、暁月に出かける挨拶をした時には、まったくそんな事は思ってもいなかったけれど。でも今そう口にしている自分もあながち嘘でもない。 「小雪ちゃんが俺を凍りつかせて眠らせてくれるなら……それもいいと思うよ」  暁月にも、こんな複雑な生に付き合わせなくて済むし。  そう思うと、慈英はふふっと笑みがこぼれた。 「…………」  小雪はそっと慈英の頬を撫でる。冷たいかなんて自分にはわからない。ただ、優しくて柔らかい。 「小雪ちゃんの手って、柔らかいね」 「……冷たくないの?」 「うん、冷たくないよ。優しくて柔らかい」  くすりと慈英が笑うと、小雪は困ったような顔をした。 「あのね、ジェイさんのこと好きよ。だから今日来ない方がいいって思ってたのに……」 (悲しそうな小雪ちゃんの声が心地いい……)  思わず眠りについてしまいそうな気持になりながら、可愛い小雪の姿を見ていたくて、慈英はその心地よさに抗い続けている。 (でももう限界。眠くなってきた。ごめん。暁月、俺先に皆のところに行くわ……)  こんな化生の体で、母親や家族の元に旅立てるかどうかはわからないけれど、そう慈英が思った瞬間。  ふわり、と慈英の背中からニジニジと何かが這い出てきて、ふわり、と空中に浮きあがった。
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