愛の日には、苦い薬を……

23/32
前へ
/32ページ
次へ
「──っ!」  それは暁月が持っていた形代の様だった。 「なに、この子っ?」  小雪がびっくりしたように目を見開く。次の瞬間、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。 「お疲れさん。おかげで慈英のいる場所がすぐわかったわ。……で。こないなところで、雪女と逢引?」  形代を肩に乗せて、そう尋ねてくるのは、暁月だ。 「逢引って、いつの時代の言い方や。今はデートっていうんや」  咄嗟に拗ねたような口調で慈英が答えると。 「デートってのは、雪女に凍り付かされることなんか?」 「いいの。放っておいたって。俺、もう生きてることに飽きたんや。いっそ好きな子に凍り付かされて、ずっと一緒に居られたら、満足なんやって」  凍り付いているから、動けない俺は目線だけ、俺の前に歩いてきた暁月をみながら言い返す。 「……ずっと一緒に居られへんよ」 「……なんで?」  小雪ちゃんは俺と一緒にずっと居たくて、それで俺を凍らせるんだ。そう思い込んでいた慈英は一瞬顔を上げかけた。 「……そやな?」  じっと暁月が小雪の方を見下ろして尋ねる。その言葉に小雪はコクリ、と頷いた。 「……じゃあ、俺、どうなんの?」  慈英の言葉に小雪ちゃんが一瞬苦しそうな顔をする。その表情を見つめていると飄々とした声が慈英に降ってきた。 「臓器だけ、売り飛ばされるらしいで?」 「──はあああああああ?」  咄嗟に慈英は小雪の膝の上から顔を起こして、ベンチに座り直していた。 「あ。やっぱし凍り付いておらんかったな」  にっこりと暁月が笑う。その言葉に、慈英は慌てて顔を左右に振って、状況を確認する。まったく何も問題ない。凍り付いた気分になっていただけの慈英を見て、小雪は一瞬目を見開いて。 「あの、どうして? というか……ごめんなさい」  どうやら慈英の正体に未だに気付いていない小雪は、びっくりした顔をした直後、慌てて頭を下げた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加