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「──っ!」
それは暁月が持っていた形代の様だった。
「なに、この子っ?」
小雪がびっくりしたように目を見開く。次の瞬間、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
「お疲れさん。おかげで慈英のいる場所がすぐわかったわ。……で。こないなところで、雪女と逢引?」
形代を肩に乗せて、そう尋ねてくるのは、暁月だ。
「逢引って、いつの時代の言い方や。今はデートっていうんや」
咄嗟に拗ねたような口調で慈英が答えると。
「デートってのは、雪女に凍り付かされることなんか?」
「いいの。放っておいたって。俺、もう生きてることに飽きたんや。いっそ好きな子に凍り付かされて、ずっと一緒に居られたら、満足なんやって」
凍り付いているから、動けない俺は目線だけ、俺の前に歩いてきた暁月をみながら言い返す。
「……ずっと一緒に居られへんよ」
「……なんで?」
小雪ちゃんは俺と一緒にずっと居たくて、それで俺を凍らせるんだ。そう思い込んでいた慈英は一瞬顔を上げかけた。
「……そやな?」
じっと暁月が小雪の方を見下ろして尋ねる。その言葉に小雪はコクリ、と頷いた。
「……じゃあ、俺、どうなんの?」
慈英の言葉に小雪ちゃんが一瞬苦しそうな顔をする。その表情を見つめていると飄々とした声が慈英に降ってきた。
「臓器だけ、売り飛ばされるらしいで?」
「──はあああああああ?」
咄嗟に慈英は小雪の膝の上から顔を起こして、ベンチに座り直していた。
「あ。やっぱし凍り付いておらんかったな」
にっこりと暁月が笑う。その言葉に、慈英は慌てて顔を左右に振って、状況を確認する。まったく何も問題ない。凍り付いた気分になっていただけの慈英を見て、小雪は一瞬目を見開いて。
「あの、どうして? というか……ごめんなさい」
どうやら慈英の正体に未だに気付いていない小雪は、びっくりした顔をした直後、慌てて頭を下げた。
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