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形代に雪女達の居場所を教えてもらうと、慈英は事情を話して、妹を救いに行くことを伝える。今まであんまり縁がなかったから知らなかったが、雪女というのは結構似通った容貌を持っているのかもしれない。
小雪に似ているその雪女の喜ぶ姿を見ていると、さっき小雪にも妹を助けに行く、と言ったらよかったのかな、と慈英は思う。
(まあ……俺が思うほど、小雪ちゃんは俺の事好きじゃなかったみたいだしな)
怒りより今はどっちかというと拗ねたような気持ちがある。恋は惚れたもの負けだと言ったのは……誰だったか。
まあ、ちょっと夢を見させてもらったからいいかと、慈英はそのまま元の妖狐の姿に戻り、都会では目立ちすぎるその姿を、人の目に見えないほど薄めていく。妖狐を自らの身に閉じ込めた時には、こうなることが心地よくなるなんて思ってもいなかったのに。
「あー、背筋が伸びる」
そう言いながら、滑空し始めると、久しぶりに遠出をすることにする。とはいえ、飛行機よりもはやい速度で飛べる体だ。小雪たちの故郷まであっという間にたどり着いてしまう。
雪女に教えてもらった場所に向かうと、山の麓にある町の入り口には『小泉八雲 雪女の里』と書かれている。
(こういうのって大概胡散臭いんだけど、ここは当たってたわけね)
慈英は肩を竦めて、ため息をつく。まさにこの山が雪女達の住む山だった、と。とはいえ雪女が住む山だけあって、東北の山奥で、新幹線の駅や空港はおろか、周辺は道路網すら碌に発達しておらず、とてもじゃないがレジャーランドが出来そうな気配はまるでない。土地代も……多分二束三文だろう。
慈英はちょっと現代的な知識があったら、気づきそうな穴だらけの詐欺計画に、心底呆れたため息を付きながら、いかにも田舎の悪徳業者、と言った感じの、なりばかりデカい派手な一軒家を見つける。ここに住んでいる男が、今回のアレコレを画策したらしい。
「おじゃましま~す」
一応挨拶に厳しい暁月の影響で、人の姿に戻り、呼び鈴を連打する。
「寒いんで入りま~す」
その割に勝手に扉を開けて家に入っていく。
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