愛の日には、苦い薬を……

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***************** 「……ようさん、積りはったなあ……」  母屋から境内を覗くと、朝日に光る真っ白な光景に、暁月は小さくため息をついた。暁月たちが江戸……いや東京に来て、既に百年以上経つが、こんな呆れる光景を数日にわたって見続けるのは流石に初めてだ、と暁月は思う。  庭の紅梅に、白い雪が積もっている姿は、なかなか風流ではあるが、新聞の情報によれば、雪のせいで東京の交通網は相当に麻痺しているらしい。 「まあ……私は出かけへんし、雪のおかげで庭掃きをせんで済むのは正直助かるけれど……」  境内に雪は積もっているが、新たに降ったわけではない。ここ数日庭の掃き掃除が無い分、今日はどこを掃除しようか。せっかくなら境内の拭き掃除を丹念にしようと思いながら、暁月は両手を擦り合わせて、白い呼気を手に吹きかけた。 「慈英の奴は……」  ふと思い出して、今朝はまだ見かけてないことに気付く。まあ毎晩夜遅くまで遊び歩いていたみたいだから、多分起きてくるのは日が高くなってからだろう。まあ、慈英の半分は物の怪だ。早寝早起きはどう考えても『らしくない』から仕方ない。まあそもそも寝る必要があるわけでもないから、多分部屋でゴロゴロしているだけだろう。そう思いながら、もう一度周りの風景を、暁月は見渡す。 「せやけど、なんぼなんでも、この光景はおかしい気がするんやけどな……」  長年こういう暮らしをしてきた暁月の勘は鋭い。  どうせ今日は境内の掃き掃除はない。境内の拭き掃除は別に今日しなくてもこの間したばかりだ。それだったら……。 「朝餉の後に、ちょっとあたりを散歩してきましょか……」  独り言をぼそぼそと言いながら、暁月は母屋の台所に引き返していく。まずは朝食を食べてから、氏子さんのところに挨拶がてら情報を聞きに行こうと、暁月は考えていたのだった。
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