愛の日には、苦い薬を……

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 さっきまで小雪ちゃんと一緒にいたベンチに座って、空を見上げる。どうやら雪女達が一斉に引き上げたらしく、夜空が綺麗に覗いている。  誰に教えてもらったのか覚えてもいないけれど、北天を見上げると、綺麗に輝く七つの星がある。北斗七星だ。  昔はあの星を頼りに航海をしたらしい。 「帰っちゃったんだろうな……」  雪女達は北の国で静かに暮らすのが似合っている。仕方のない時ぐらいは人を凍らせたりするだろうけど、基本的には雪で命を落とした人たちの無念の思いが残っているだけで、さほど黒い恨みもその体には残してないから。  そのうち自然と空に返っていく。今年の春が来る頃には、きっと多くの雪女が空に戻っていく。きっと天真爛漫な小雪ちゃんも……。  ふとポケットに手を入れると、今日小雪ちゃんにもらったバレンタインのチョコレートの入れ物に気付いた。 「そっか、食べ損ねちゃってたんだよね……」  ヴァレンタインの夜は更けていく。幸せな恋人達は、こんな時間にこんな寒い外にはいない。きっと暖かい部屋で暖かい肌と触れ合っている事だろう。 (……まあ、小雪ちゃんの肌はつめたいんだろうけどさ)  温度を感じない俺なら問題なかったのに、とふと思ってしまう未練がましい気持ちに、小さく吐息をつく。  暁月の吐息は白いが、慈英の吐息は寒くても無色だ。別に体温が無いわけじゃないけれど、多分実体がこの世の生き物じゃないから……。  可愛いラッピングを荒っぽく剥いて、中から出てきた可愛らしく並んだチョコレートを一つ摘まんで口に放り込む。 「……って、苦っ……」  どうやらカカオ濃度が高くて甘さ控えめのチョコらしい。ほろ苦いというにはちょっと苦みの勝つ、それでもきっとチョコレート好きな人にとっては美味しいと思う様な複雑な風味が口の中に広がる。  ──カカオって昔は薬だったんだよな……。  このほろ苦い味が愛を深める特効薬になる人だっているだろうに……。だったら失恋を慰める特効薬になってくれたらいい。なんてセンチメンタルな事をヴァレンタインデーだから慈英は思ったりする。
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