愛の日には、苦い薬を……

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「ちぃっす♪」  最近お気に入りのクラブは、渋谷のセンター街から外れた先にある小箱で、箱内はオールジャンルの音楽が低音を効かせて鳴っている。踊りやすいようによく磨かれている木製のフロアでは、何人かの男女がリズムに身を預けて、ステップを踏んでいる。 「ジェイさん。今日は回すんですか?」  その中の一人が、ディスクを回すような手をしながら、にこにこと笑顔で近づいてきた。ここのクラブで知り合いになった陽太という大学生だ。  慈英はバーカウンターでドリンクを頼むと、そのままフロアではなく、壁沿いの暗がりにある大きなソファーに腰を掛ける。背もたれに寄りかかると、ずぶずぶと体がソファーにもぐりこんでいきそうだ。  この時代の人間にしてもそこそこ長身の慈英は、金色っぽい髪の色と目の色で矢鱈と目立つ。まあ、慈英も面白がって、自分は『ジェイ』だと名乗っているので、当然のように欧米系のハーフか何かだと思われているらしい。  だから長い足を放り出してだらしなく座っている様子も、なんとなくモデルっぽくて、都会の人って感じで、密かに陽太は慈英に憧れているらしい。   「とりままったりしとこーかと。てか陽太、ここんところ久しぶりじゃね?」  慈英のしゃべり方は、クラブにいると、元々の京のなまりが消えて、チャラい東京の言葉になる。単に周りに影響を受けているだけだが、言葉遣いが変わると、自分の人格……だか、狐格だかなんだか、なにかわからないものが、曖昧になる感じで、それはそれでこの魑魅魍魎な渋谷という街に合ってて、結構悪くないと思っている。 「ですよねー。つーか、ジェイさん、聞いてくださいよ。自分、彼女ができたんっすよ~」  彼女が出来て、めっちゃテンションが上がっているらしい陽太が、眉を下げて嬉しそうに笑っているのを見て、一般の人間のつつましやかな幸せが、慈英は心底羨ましいと思う。 「マジかっ、ちょーウラヤマ」 「ちょ。ジェイさんがウラヤマってことはないっしょ。ジェイさん、めちゃくちゃモテるしぃ。この間の合コンの小雪ちゃん、めっさ可愛かったっすよね。さっさとジェイさんお持ち帰りしちゃったけど。狙ってた奴多かったんですよ。……それにほら、向こうでもこっち見てるジョシがいますよ」  陽太の視線の先には、確かに一人いる。……けどあれは……。
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