愛の日には、苦い薬を……

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「──陽太ってさ、もしかして霊感強い?」  思わず慈英はそう尋ねてしまう。何故なら、そこにいる超イケてるジョシ風味は……実は風味の物の怪系統で……。多分店のほとんどの奴らには彼女は見えてないはず。  多分このクラブで昔遊んでいたレベルの弱い意志しか感じられない浮遊霊にすぎないのだから、こんだけテンションが高い場所では、気配すら感じてないのがノーマルな人間だ。 (せやけど、あれが素で生きている人間と変わらずに見えるんやったら、陽太って、相当霊眼があるんちゃうか……) 「え、霊感? 全然っ。いや金縛りとか良くなりますよ? でもあれって脳と体がどうのって奴でしょ。いやあ、でもバイト先とかで、接客の時に出す水の数が多いとかよく文句言われるんですよねえ。バイト仲間の奴とか、ちょー気持ち悪がるし。なんなんすかね、一体」 (それ、絶対他の奴が見えてないモノが普通に見えてる系なんやけど……)  きっとこの天然の性格から言って『ムジカク』て奴だな。天然系霊感小僧。──そう慈英は判断する。 (たまにこういうタイプ、見かけなくもない……いやもう20歳過ぎてて、アレが見えるレベルって結構レアだよな。霊感も無くならず、しかも見えている意識すら碌にないっていうんだから……)  慈英の中で、陽太の事を『天然系無自覚霊感少年』とレッテルと貼ると、要注意人物と記憶する。 「うーん、俺、あのタイプには興味ねえの」  とりあえずそう言って会話を誤魔化して、わざと空になったグラスを振ってみる。 「あ、ジェイさん、グラス開いてますね。おんなじのでいいですか? オレも喉かわいたんで、一緒にお代わりもらってきます」  そう言うと、陽太は慌てて空のグラスを持ってバーカウンターに向かいかけて、一瞬振り向いて音楽に負けないように叫んだ。 「あ、小雪ちゃん、今度こっちにも連れて来て下さいよ。ついでに小雪ちゃんに可愛い友達がいたらこっちにも紹介してくださいよっ」 「ってさっき彼女出来たとか言ってなかった?」 「可愛い子はなんぼでも、友達ストック増やしときたいんで」 慈英は相当チャラい本音を言い返す陽太の背中をじっと見ながら思い出す。 小雪ちゃん、かあ……。 ふと思い出したその屈託のない表情に、じわりと胸が痛んだ。
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