愛の日には、苦い薬を……

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 暁月は小さくため息を漏らしながら、手紙を開く。そこには、墨も黒々と流麗な文字が並んでいる。相変わらず『お館様』の筆跡は麗しい。内容がろくなものでさえなければ……。 「…………」  時候の挨拶を読み終え、内容に読み進もうとした瞬間。 「あれ、猫、来てんだ」  すぅっと戸が開き、ジャージ姿のだらしない恰好の慈英が、腹を出してボリボリと掻きながら部屋に入ってくる。 「──にゃっ」  いきなり猫のように鳴いて、猫は顔を赤らめつつ紅潮した目元を手のひらで覆う。と言いながら、人差し指と中指の間が開いていて、そこからキラリと光る瞳が見えて、慈英のその姿をたっぷりと堪能しているが。 「なに? 兄者、仕事?」  そのまま暁月の持っていた手紙を勝手に覗き込むと、さっさと読み始める。ちなみに猫は慈英をうっとりと見つめ続けているが、慈英はその事に全く気付いていない。暁月は、二人(匹?)を観察しながら、慈英が手紙を読み上げるのを大人しく聞いている。 「えっと~。このところ都内で発生している異常気象現象と前後して、行方不明になる人間が続出している。こちらの調べでは、警察などで知り得ている以上の人間が姿を消していると思われる。 特に身寄りのない者、単身者、ホームレスなど多数いる可能性があり、実数は未だにつかめていない。東京周辺で霊的な歪みが生じていることも事件とは無関係ではないと想定される。世間で大きな問題になる前に対処されたし。……だってさ」  慈英の言葉に猫はうんうんと頷き、暁月は深いため息をつく。 「ってことで、原因を探って、適当に解決したってね。今東京で使える陰陽師は暁月だけしかおらん、ってお館様が言ってはったよ」 「斑緒はどないしてんのや」  思わず暁月が同業者の名前を出すと、猫は顔を撫でていた手を止めて、首を傾げてこちらを見返す。 「……斑緒は、スキーと温泉付、と言われて、地方に駆り出されてるにゃ」  暁月はキャリア二十年ほどの気の良い陽気な男を思い出して、また都合よくつかわれているのかと苦笑いをする。とはいえ、手紙の内容では、雲をつかむような話で……。
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