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受付の男はジャックから目を離し、ジャックの出した紋章を見る。
馬上槍試合では、兜を被る、顔がわからなくなるので、紋章のある旗を掲げるのが決まりである。
「ジャック・ファング。ストーンメイヴのファング家?」
受付の男は驚いたようにジャックを見る。
「ファングの名は読み上げなくていい」
ジャックは言った。自分が『ファング家らしくない』ことは重々承知している。
「じゃあ名前をなんて読みあげればいい」
「ジャックでいい」
「それだけだと呼びかけとしてはもの足りないんだな。おおぐまジャック、でいいか?」
「………それでいい」
ジャックはうなずいた。
武芸競技に出るものが全て騎士の家の出身だと言うわけではない。それらのものたちは競技に出るさいに名を読み上げられるときに、名前の上にそれぞれの特徴などをつけることが多いらしい。
受付の男はジャックの容姿を見て大熊とつけたのだろう。
(いいな、ジャック・ファングよりもずっといい)
ジャックはその名乗りを自分が気に入っているのを感じた。
ジャックがファングと言われたくない理由の一つは、ファング家の一つの評判がある。
ファング家というのは代々執政官を務める家として名を知られている。現執政官はジャックの母親違いの兄だった。
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