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ファング家にはあるいわれがあった。
すなわち、ファング家に生まれる男子は、おしなべて男前である。
今現在ファング家の直系と言える男は、兄とその息子であるが、二人とも、吟遊詩人が歌う悲恋物語の主人公になりそうな、スラリとした甘い容貌なのだ。亡くなったジャックの父も兄によく似ていた。
しかし、ジャックは父にも兄にも似ていない。
二人が妖精なら自分はオーグか何かのようだ。
ファング家の男としてはありえない。
とはいえ、ジャックは騎士であり、戦士であるいくら美形だと言われている一族でそうでないからと言って、戦士であるからには、大きくいかめしい容姿を恥じることなど本来はないはずである。
しかし、ジャックには己の姿に引け目を持つ理由があった。
(そもそも、ここへ来たのもこの姿のせいだ)
そして
(この試合に勝たねば、とてもストーンメイブに帰ることはできぬ)
ふいに兜が震えた。それは場内を揺るがす歓声のせいだった。
対戦相手が登場したのだ。白銀の鎧に、旗、その体は小さいというほどではないが、ジャックほどに大きくはない。その鎧には遠目から見てもあちこちに傷があり、年季が入っていた。ジャックは今自分の着ている傷一つないだろう立派な鎧を思いふと恥ずかしくなった。
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