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「ねえ、今年もバレンタインがきたね。」
真っ赤な唇を、三日月形にきゅっとゆがめて、彼女は言った。僕の体は、一瞬にして凍り付く。
「ねえ、私ね、さみしかったんだよ?ホワイトデーにお返しくれるって、言ってくれたのに。ずーっと待ってたのに。なんで去年くれなかったの?」
自分の心臓の音がうるさい。どくり、どくり、と、耳元で音がする。
「ねえ、今年は。」
***
ぐちゃり、ぐちゃり、と音がした。
なんだか気持ちの悪い音だった。
「ねーえ、冬馬。おいしく作ってあげるね。」
僕はいつも、彼女の顔を見るとき、真っ赤な唇のせいで瞳を見ることができない。彼女の唇はふきだしたばかりの血のように赤く、甘美な毒リンゴのように、僕を誘っていた。
ぐちゃり、ぐちゃり。
「もうすぐできるよ、冬馬。」
ああ、ほんとに。ホワイトデーにお返しくらいあげればよかった、とぼんやり思った。
***
出来上がったトリュフチョコレートは、甘い甘い香りがした。私の好きなものでできたトリュフチョコレート。とてもおいしそう。
「できたよ、冬馬?」
***
「ねえ、今年もバレンタインがきたね。」
真っ赤な唇を、三日月形にきゅっとゆがめて、彼女は言った。僕の体は、一瞬にして凍り付く。
「ねえ、私ね、さみしかったんだよ?ホワイトデーにお返しくれるって、言ってくれたのに。なんで去年くれなかったの?」
自分の心臓の音がうるさい。どくり、どくり、と、耳元で音がする。
「ねえ、今年は。」
「こ と し は あ な た を い れ て あ げ る」
こんなことなら、チョコレートくらいお返ししてやるんだった。
バレンタインなんて大嫌いだ。
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