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動ける新兵が戦線離脱した新兵を探しに行っている間、トールは目を覚ましたファイアードレイクに何か話しかけていた。
残っている負傷した新兵達は、黙ってそれを見つめている。
「お前の力を、俺達ヴァルハラ帝国に貸してくれないか?」
ファイアードレイクは、攻撃する素振りは見せないものの、【グルルッ】と喉から低い唸り声を鳴らしている。
「とりあえず、擬人化してくれないか? 話はそれからだ」
トールがそう提案すると、ファイアードレイクはそっぽを向いた。
背に装備している大剣に手を伸ばし、無慈悲にもファイアードレイクの尻尾にそれをブスリと突き刺す。
【ギシャァァァァァ】
赤きドラゴンは悲痛そうな鳴き声を上げ、地面がビリビリと振動する。
「糸も簡単に、あの固い皮膚に剣を突き立てるなんて……」
ベルは悔しさのあまり、キュッと唇を噛み締める。
トールはファイアードレイクに、もう一度提案する。
「擬人化、しろよ。俺もあまり手荒い真似はしたくないんだ」
そこにいた新兵全員が(嘘だっ! )と心の中でツッコミを入れるのと、ファイアードレイクの体が小さくなっていくのは同時だった。
シュルシュルと巨大な生物の体が縮んで行くと、それは人の形を成す。
赤の長髪に、釣り上がった金色の瞳。
目の下には黒色で逆三角形の小さな模様が2つがある。
耳は尖っており、見た目は活発そうな褐色肌の青年だ。
「ひっ、人になった!?」
新兵のひとりが驚きの声を上げると、巨大なドラゴンであった青年が赤い長髪を揺らしながら、「うるっせぇ!」と不機嫌そうに声を出す。
「俺達人外でも、人の形に変化することが出来んだよ!」
「しゃ、喋った!!!」
いちいち驚く新兵を無視して、ドラゴンであった彼はトールの方へと顔を向ける。
「俺に、人間の下に付けってのか?」
トールは深く頷く。
「そうだ」
背を向けたファイアードレイクの後ろ姿を見て、新兵達からは笑いを堪える声が。
「見ろ、アイツ……。尻から、血が出てるぞ……」
「あぁ、さっき声掛けに無視して、尻尾を刺されてたからな……くくっ」
褐色肌の青年は赤紙を揺らしてバッと後ろを振り返り、金色の目をカッと見開く。
「お前等もケツに剣刺されてみろ!! 超痛ぇーんだぞ! くそっ」
(それは確かに痛そうだ)と納得しながら、ベルはファイアードレイクのお尻を見つめていた。
まぁ彼女は、目を突き刺すというもっと酷いことをしようとしていた訳だが……。
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