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この経緯についてはボク自身に記憶がないのだが、第三者の証言が複数出てきたため、警察も起訴は断念したようだ。
しかし、店が被害届を出していないとは言え、包丁を持って押し入っているのだから、全くの無罪放免という訳にはいかず、身元引受人の保護観察をつけるという条件での釈放が、色んな方面へ向けて丸く収める形ということだったらしい。そして、その身元引受人として名乗りを上げてくれたのが、『もりや食堂』の親方と女将さんだったのである。
逮捕劇から一転釈放となったのは、新しい年も明けた一月の八日頃だった。
町では十日恵比寿の支度よろしく、沿道のあちらこちらで彩り賑やかに飾り付けが華やいでおり、太鼓を叩く音や笛の音が耳に入ってくる。
放免の日、親方と女将さんがやってきた。警察署の玄関では全ての警察官らしい人たちに挨拶をしている。やがて玄関を通り過ぎ、ボクを連れて出た担当官に深々と頭を垂れて挨拶をした。
「大変お世話になりました。」
その直後である。
==バシッイイイイイイッ!==
ボクの顔を見るやいなや、大上段に振りかぶった平手打ちがボクの頬をこれでもかというぐらいにヒットした。
「この、おおバカヤロウ!一体、どれだけ心配したと思ってるんだい!」
解ってはいたが、渾身の一撃だったと見え、ボクの体は小石のように吹き飛んだ。
怒号と平手打ちはほぼ同時だったが、口より手が早いのは女将さんの性格上、仕方のないことである。しかし、女将さんの目は真っ赤に染まっており、目からは大粒の涙がボロボロとこぼれていた。
「なんて大それたことをしでかすんだい。なんでアタシに相談してくれなかったんだい。」
そう言い終ると、誰の目を憚ることなくボクを抱きしめ、おいおいと泣き出した。
「ゴメン、ゴメンよ。ボクもなんだか訳わかんなくて、もう頭に血が上ってしまって、一気に行っちゃったみたいだ。みんなに迷惑かけたね。ゴメンネ。」
親方がそっとボクの肩に手をかけて、優しく話しかける。
「こいつはな、ニュースでキョウちゃんの事件を見た時からずっと無罪を信じてたんだぜ。ワシはキョウちゃんならやったかもしれんな、なんて言ったらえらい剣幕で怒鳴られたもんだ。でもその通りになって良かった。ホントに良かったよ。」
「親方も女将さんもありがとう。この恩は一生かかってでも返すよ。」
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