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それから家に帰って、時間が過ぎた。そして19時になる。彼は来ない。そのはずだ、彼とはあれが最後だったのだから。そう思うと、また悲しくなってきた。こみ上げる涙を堪えて、「切り替えなきゃ」と自分言い聞かせる。
でも、もう一度だけもし許されるのなら彼に会いたい。彼のいない食事はやはり、寂しかった。
19時30分、インターホンが鳴った。まさか!と思った。けれど、すぐにその期待は私の中から消える。彼との関係は終わったのだ、彼は来ない。彼は彼の家庭の一人なのだから、もし私の所に来た時は彼がそれを捨てた時だ。
せいぜいセールスかなんかだろう。そう思ってドアを開く。けれどそこにいたのは、私の予想に外れた結果だった。
彼がいたのだ。
彼が、私の目の前に再び現れたのだ。嬉しかった。私のために、家庭の為ではなくただ一人の私のために彼が来てくれたのだ。
彼の服は赤い血で汚れていた。飛び散った物が付着したような、そんな様子で彼のしわくちゃなワイシャツにこべりついてる。彼は震えた声で「どうしよう……」と言った。
私は察した。彼は私を選んでくれたのだと。彼自身の家庭ではなく、どうしようもない、私を。
これは罪。彼をたぶらかして、自分のものにした。そして彼を共犯者に堕とした罪。私は彼とようやく、共犯者になれた。
これはきっと最悪で最低な恋。私は最低で最悪な女だ。でもそれでもう構わない。もう、どうにだってなっていい。だって彼はもう私のものなのだから。
さあ、最低なキスをしましょう。
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