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世界的に名を馳せるデザイナー阿賀野紀章。
彼が経営するデザイン事務所『DESIGN - AGANO』に、大手エステサロンから話が舞い込んだのは一週間ほど前の事だった。
男性に向けたエステを新規展開する話が持ち上がり、その先駆けとなるポスターを事務所で制作する事になったのだ。
企画も含め、その案件は事務所に一任された。
――芸術的な観点からプロモーションをかけてはどうか。
――単なる写真ではなく、ポスターには男性の裸体の素描きを採用しよう。
それが事務所側からの企画提案だった。
阿賀野のデザイン事務所は規模が大きい。
三十人ほどのデザイナーが所属し、それぞれがチームになってプロジェクトに当たっている。
その為、皆が皆、すべての案件に関わる訳ではない。
だからこそ三条怜は、全体ミーティングの最中、どこか他人事のように、その話を聞いていた。
入社二年目の自分が関わるにしては大きすぎる案件――進捗の報告を聞くことがあっても、プロジェクトに参加することはないだろう。
それくらいの心持ちだった。
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