3時間の視線

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「……っ、もう、やめてください」 耐えきれなくなって、溢れる。言葉も、感情も、涙も。 浅ましいと思うのに、昂ってしまったそれが、今度は苦しくて、つい手を伸ばしてしまいそうになる。 「怜、触れては駄目だ」 「せん、せいっ、……」 「最後まで責務を全うしなさい」 ――君はモデルだろう。 厳しい口調で言われて、緩みかけた腕を元に戻す。 時間内は、一定のポーズを崩してはならない――それが決まりだ。 分かってはいた。 けれど、触れたい。触れて、この身体にくすぶる熱を開放したい。 耐えきれなかった。 自分を支えてきた土台を、足を。全てをもぎ取られたように矜持が崩れ落ちていく。その破片すら視線に射貫かれて、粉々に散っていく。 「触らせて、くだ、さい……」 「駄目だ」 断ち切られて、よりいっそう下肢の熱量が増す。 内腿を小刻みに痙攣させながら、無意識に手が伸びる。 「怜」 「……っ」 「言っただろう、絶対に触れてはならないと」 「……っ、でも」 「ここで見ていていあげるから、想像して達きなさい」 「先生っ……」 信じられずに、唇が震える。
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