1.梅雨明けの夏空

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1.梅雨明けの夏空

 生まれてきてよかった!  わたしは最近、よくそう思う。 やさしいお父さんとお母さん、歳が九つも離れたかわいい弟。そして大好きな彼氏との毎日。この時間はもう永く続いているし、きっと、まだまだ終わらない。  都心から埼玉方面へ伸びる私鉄の沿線の街、急行列車はとなりの駅には止まるけれど、最寄り駅には止まらない。落ち着いたベッドタウン。映画館があることだけが自慢。駅を南口に出て徒歩で七分ほど歩いたところにわたしは住んでいる。  お父さんとお母さんは大学時代の同級生で、二十五歳で結婚し、二十八歳の時にわたしが生まれた。子供の性別が女の子だと分かった途端、両家のおばあちゃんが両家にとっての初孫を喜びお雛様を買ってきた。そのお雛様と待ち望んだ子供として、‘雛子(ひなこ)’と名前をつけてもらった。弟は酉年だったことと、お父さんの名前から一文字とわたしの名前にちなんで‘磨鳥(まとり)’と名づけられた。一緒に住んでいる家族は両親と弟。お父さんはお調子者で面白く、お母さんはサバサバしていてイケメン好き。よく若いアイドルのコンサートに行っていて楽しそう。弟はまだ七歳で、めちゃくちゃかわいい。赤ちゃんの頃から全てを知っているので、両親と一緒に磨鳥を育てた気さえしている。  わたしはこの春から共学の高校に通い始めた。自転車で二十分ほどの距離にある普通科、それだけで決めた。敬服はべつに可愛くもダサくもない、シンプルな黒のスカートにワイシャツ、灰色のベスト。本当は彼氏の宗助くんと一緒の高校に行きたかったけど、彼は名門男子校に通っていたのでその夢は儚く消えた。    彼のこと。  わたしの彼氏は三条(さんじょう)宗助(そうすけ)。1つ年上の十七歳。本当に、本当にすばらしい人。大好き。  優しい。かっこいい。清潔感がある。食べ物の好き嫌いが少ない。背が高い。頭が良い。さりげなく、わたしをエスコートしてくれる。お姫様扱いと言ってもいい。手が大きい。わたしの家族を大切にしてくれる・・・・・・。ずっと良いところを言ってられるぐらい夢中になってしまう存在。それが宗助くん。  宗助くんとはまさに生まれる前から一緒に居る。親同士が親友だったから。幼馴染といえばそうだけど、生まれる前から親同士、『将来、お互いの子供を結婚させる』と決めていたから、わたしたちは、運命の恋人だと呼べるだろう。
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