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大気中の水分がようやく軽くなり、随分と呼吸がしやすくなったように感じる八月三日。まぶしい光が地上のものへ平等に降りそそぐ。
「また明日、堀江くん!」
「気をつけてな、ヒナ。」
「うん!」
ギターを背負い自転車に乗り、ちょっとよろけたわたしにあわてて声をかけてくれた。
体勢はすぐに持ち直したけど、とにかくわたしは注意力が散漫だ。膝には治ったそばから擦り傷ができる。十六歳にもなって。
わたしは高校になってギターを始めた。軽音楽部に入ったからだ。わが高校の軽音楽部は出来たり無くなったりしていて、今はわたしを含め四人しかいない。その四人でバンドを組んでいる。
バンドメンバーはみんなわたしより年上だ。ドラムの堀江くんは受験生で、この夏のライヴでしばらく活動をお休みするらしい。第一志望の地元の大学に無事合格すると、また一緒にバンドができるらしい。ギターの松田くんは県外に進学予定なのできっとこの夏まで。ベースの立花くんは二年生なので、まだ一緒にやれる。立花くんが一番仲がいいと思っている。
バンド名は『BAREFOOT』。わたしが軽音部に入る前に出来たバンドだった。春までは立花くんがギターヴォーカルのスリーピースバンドで、松田くんと立花くんの弦楽器隊が裸足で演奏していたからこのバンド名になったらしい。わたしは部活説明会で好きなインディーズバンドのコピー曲を演奏していたこの人たちに興味を持ち、部室を訪れた。
特になにも考えず、そのとき演奏していた曲に合わせて歌ってみた。先ほどの曲と同じバンドの違う曲で、同じアルバムに収録されているバラードだった。少しして演奏が止まり、堀江くんが
「このバンドで歌わない?」
と話しかけてきたので、わたしはふたつ返事で
「いいですよ。」
と答えた。どうせ何か部活動しなきゃいけないし、音楽は好きだった。
「女子いないけど大丈夫?」
立花くんはそういう気遣いが出来る人で、この人一番モテるだろうなと思っている。
「特には。」
短く答えた。三人がほっ、とした様子が面白くて、笑ってしまった。
あとからメンバーに「あの度胸すげーよ。」と言われた。「何が?」と返すとわからないならいい、と言われた。
学校生活も部活のお陰で楽しい。歌うのは気持ちいいから。
自転車で公園を突っ切ろうとしたとき、木漏れ日を浴びる人影を見つけた。
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