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それは馬車の中……
「……何で?」
暗い中、蹲るセレイは、小さく声に出して呟いた。
「どうして、こんなことになっちゃったのかなぁ……」
年の頃は十になったばかりと云ったところか。
この少女の居る場所は、木の板を打ち付けた粗末な壁で囲われた、小さな部屋であった。天井近くに開けられた、人頭ほどもない明かり取り以外に窓らしいものはなく、一つしかない入り口も、固く閉ざされていた。その小さな窓から漏れる光が、今の時間が昼間であることを告げている。
いや、全体がガタゴトと揺れ、時たま馬の嘶きが聞こえるところからすると、これは単なる部屋ではなく、おそらくは馬車か何かの荷台のようだ。
その馬車が何処に向かっているのか、そも、今、何処を走っているのかさえわからない。雨期が過ぎ、清々しい暑さと共に広がる筈の青空も見えることはなく、唯ひたすら蒸し暑いだけだ。
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