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「行くところがないのかい?」
街に着いた最初の夜――
泣き疲れ、初めて夜であるに気付いたセレイの耳に、聞いたことがない、不思議な旋律を奏でる竪琴の音が聞こえた。
憧れていたはずの人族の里で、その日の内に辛い現実に打ちのめされて途方に暮れ、公園の長椅子に凭れていたセレイに優しく話し掛けてきたのは、上半身を覆う派手な色遣いの外套に身を包み、羽根飾りを付けた、鍔の広い帽子を被る若い青年だった。聞こえてきた音は、手にしている竪琴が鳴らしていた音であろうか。
「……お兄さん、誰? 芸人さん?」
「吟遊詩人、と呼んで欲しいなぁ……」
白い肌に青い目を持つ、セレイが初めて見た西方人と思われる男は項垂れた少女の横に腰を下ろし、流暢な中原語で言葉を続ける。
「君は、街に来たばかりだね? もし良かったら、僕が相談に乗るよ」
「芸人さん……優しいんだね……」
「だから、吟遊詩人だよ……」
街に来て、初めて優しい言葉を掛けられたセレイは、この日に起こった出来事を涙ながらに話し始めた。
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