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「……汚い羽を散らすなって怒られた。それが悔しくて……!」
セレイは自慢としていた赤茶色の翼が「汚い」と罵られたことで、ツバサビトが全ての人族に歓迎されているわけではないことを実感させられていた。
そんな涙混じりの愚痴を黙って聞いていた吟遊詩人は、話し終えた頃合いにこんな話を持ちかけた。
「……僕は、君のような境遇の子供達を多く知っている。良かったら、僕の所に来ないか?」
「…………え?」
「僕たちと一緒に旅をして、[楽園]を目指すんだ……僕は、身寄りのない君たちのような[亜人]を保護する団体を指揮している。君も、僕たちと一緒に来れば、きっと、幸せを見つけられると思うよ?」
この日、精神的に打ちのめされていたセレイの耳には、この言葉は救いの福音に聞こえたことだろう。もしこの時、この翼の少女に知識と冷静さが備わっていれば、男が口にした[亜人]という言葉に不信感を抱けた筈である。
何故なら、[亜人]は、異種族の対する蔑称なのだから――
しかし、今のセレイに、その悪意を感じるだけの判断力が失われていた。
「さぁ、行こう。僕の名はスレイドラ。君の名前は?……」
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