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それからのことを、セレイは憶えていなかった。
確か、スレイドラと名乗る吟遊詩人に連れられて食事を貰ったはずだ。
香辛野菜を中心とした、辛みと甘み、酸味が多彩に組み合わされた汁物や、様々な種類の果物、からりと揚げられた鶏肉、付け合わせのナンに至るまで、これまで見たこともない料理が並べられ、感激を憶えたのも確かだ。
また、故郷の島で自分が寝床としていた木の上の住処では絶対に感じることがない、ふかふかの綿布団が敷かれた寝具など、全てが初めての体験だった。
地獄だった一日が、たった数時間で天国へと転じたのは確かであった。
その筈だった――
そこから先の記憶が完全に飛んでいた。
食後、最後に部屋で飲んだ、香りの良い茶の味が少しおかしいような気がしたところまでだった。
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