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ゴンドア大陸中央部分、そのおよそ六割を占める〈中原国家群〉――
その南方、海沿いの小国〈シャムル〉の海岸沿いから南に数キロほど離れた名も無き孤島に住まう者たちは、その全てがツバサビトで占められていた。
とは云うものの、個体数は決して多くない。元より、ツバサビトは必用以上に大きな群れを持たない特徴がある。
彼等は気ままに島の周辺を飛び回り、魚が欲しくなれば海に飛び込み魚を捕り、肉が食べたくなったら海岸沿いの森まで飛んで狩りをする。自然の中で手に入らないものが有れば、人里の市まで飛び、手に入れてくればよい。
金を直接手にすることは滅多にない。そも、必要ともしない。
自分たちで捕った獲物や時たま拾う綺麗な貝殻、希に見つかる難破船の宝物を付近の漁村に持って行けば、大抵はそのまま欲しいものと交換して貰える。
そしてツバサビトが欲するものは、たいていの場合、人族にとって決して高価すぎる物ではないことが多い。
自由に飛び回れるツバサビトにとって、海は何の障害にもならず、自由に海岸沿いの街まで飛べる。上昇気流を上手く捕まえれば、今生の飛空船では越えることが叶わない山の頂さえも飛び越えられる。そして当然、国境などと云う目に見えない曖昧な壁さえ、彼等の前には無きに等しい。
それ故、国によってはツバサビトを迫害していると云う噂もあるが、そも、そんな国には寄りつくことさえしない。
そして、セレイはそんな島で育ったツバサビトの少女だった。
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