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「アタシは、人のところで暮らしたい」
セレイがそう言ったとき、滅多なことでは驚かない両親が戸惑いを見せた。
それほどまでに、この少女の言葉は衝撃的だった。
ツバサビトは、生まれて十年程度で〈巣立ち〉を終えて群れを離れ、ある者は山に生活の場を求め、ある者は別の島や海岸沿いに住処を作る。また、暫く外で暮らした後、再び群れに戻ることも可能である。
そんな中、希に人里に居場所を求める者もいる。
確かに、一部の国では入国どころか見つかっただけでどうなるかわからない場所もある。しかし、逆に空を飛べることを買われ、飛脚などとして雇われることもある。
両親が驚いたのは、その島で人里に憧れたのは、知る限りセレイが初めてだったからである。
セレイが人里に憧れたのは、幼少の頃に連れて行ってもらった、漁村の〈祭〉を見た時だった。
普段は質素な土壁と板状の平たい石を葺いただけの屋根しかない村の様相は一変し、祭の夜は、きらびやかに飾られた、別世界となっていた。
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