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町長とそんな会話に興じながら、土色の壁を持つ建物が並ぶ町並み、様々、と言うより雑多な衣装に身を包んだ人々で賑わう通りなどの風景を、流れゆく車窓から眺める。
「相変わらず、賑わっているようで何よりだ」
「それも、イバン卿や砦の皆様の庇護あってのものです」
役場も兼ねる町長の館に到着後、西方風に設えた執務室に通されたイバンは、勧められた長椅子に腰を下ろし、予め並べられていた資料に目を通す。
ホドの街で、日常となっている風景である。
「……この手配書は?」
暫く書類を読んでいたイバンは、何気に手にした手配書の内容に首を傾げる。
「それですか?……さっき届いた書類ですが、何でも、ボナ砂漠沿いの街道から外れたところに点在する、小さな街や村に出没した[賊]とのことです。
なんでも、[とんでもないこと]をしでかした奴らだとか……」
「内容から察するに、少々面倒な相手ではあるが……」
給仕によって運ばれ、町長自ら差し出された茶を口に含みながら、暫く、その手配書をじっくりと読んでいたイバンだが、やがて、
「まぁ、ここに来るとは限らんが、一応、街道を注意して巡廻しよう。相手は鉄甲騎を所持しているようだし、油断はならないだろう。
どっちみち最近、ゼットスとか名乗る兇賊が出没しているし、警戒は充分にしなければならないからな……」
と、茶を飲み干して立ち上がった。
「もう、お発ちで?」
「あぁ、これから、ベノレス峡谷に分け入ってみようと思う。何、奧にまでは行かないさ」
「では、お気を付けて。ご武運をお祈りいたします」
その町長の心遣いに、イバンは苦笑する。
「戦をしに行くわけではない。今は、争いが起きないことを祈ってくれ」
街の入り口へと戻るべく、町長に見送られながら馬車に乗り込んだイバンだが、南の空に、見慣れない大きな鳥が飛んでいく姿が見えた。
「鷲?……この辺りに、あんな大きな鳥など珍しいな……」
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