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セレイの決意
馬車の後方扉――
意を決したスレイドラが、錠前の外れた扉を思い切り開けた直後、
「ケェ―――――――――!!」
と、甲高い金切り声と共に視界に飛び込んできたのは、恐ろしい形相を見せる女の顔だった。白目と犬歯を剥いて、今にも翼を広げて襲い掛からんとする異形少女の姿は、西方の伝承に登場する魔物〈ハルピュイア〉そのものだった。
「「ひゃああぁぁ―――――!?」」
不意に現われた伝説の怪物、その登場を前に、頭目スレイドラと腹心テンプは、思わず抱き合い、震え上がる。
彼等の前に現われた[魔物]の正体は、セレイである。
高速で飛行するツバサビトは、目を保護するために第二の瞼と言うべき半透明の膜を持ち、それを閉じると、まるで白目を剥いたような姿となる。そして、今の金切り声もまた、ツバサビトが持つ特徴であり、主に遠くの仲間への連絡手段や自らへの鼓舞、敵対者への威嚇などに用いられるものである。
ちなみに、ツバサビトのこういった特徴が、彼女たちを魔物と誤認させる原因の一端であり、厄介なことに、こういう使い方をしておいて何であるが、その事について、セレイをはじめとする大半のツバサビトは、その理由に気付いていない。
それでも、今のセレイは人狩りどもに一矢報いたことに感無量である。
「ビックリしてるビックリしてる、ざまぁ見なさいっ!!」
「そんなことしている場合かよ!? とっとと逃げるぞ!!」
と、発せられたルワンの合図にセレイは外へと飛び出し、その後にルピを背負ったリラが出てくる。当然ながら、自分たちを縛り付けていた足枷は全て、外れていた。
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