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古びたバス停は、雨風を凌ぐ為に必要最小限の屋根が取り付けられていて、屋根にて休む二羽の百舌鳥が、バスから降りた人間に驚き飛んで行く。
狐おにやま前バス停と書かれた、錆びた案内板を見つめる。
鬼となった狐でも居るのだろうか、会ってみたいものだ。
小秦(おばた)圭介(けいすけ)はバスから降り、腹に沢山詰め込んでいた都会の空気を吐き出した。鬼と化した狐が昔住んでいたと語られる山の麓で、透明な空気をこれでもかと詰め込んだ。
バスに乗り込んでから、徐々に人は居なくなり後半は運転士と圭介の二人を運ぶための乗り物となったバスを見送りながら、リュックサックを背負い直す。
青空に大きな入道雲が広がり、夏の暑さを思い出させる。涼しい車内とは違い、また山の麓のイメージとは違い、水車はあるが回っては居ないし、小川から音は聞こえない。
枯れずに流れているのだから、良しとしてくれとでも言わんばかりに、申し訳程度に流れているのが現状。
大きくも小さくもない狐おにやまは、緑一色で続き、青空の色は入道雲の白に完全に負けている。
現実はそんなものだと、明日から勤める天川(あまかわ)中学校へ歩く。
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