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「遅いよ小野田―」
来栖とは反対側の私の隣に座った小野田は、カウンターの中の従業員に「生中ひとつ」と声をかけてから、こちらを向く。
「悪い。電話中だったから気付くのが遅くなったんだよ」
「あ。苑子ちゃん? もしかして会う約束だった? だったらそっち優先で良かったのに」
「いや。彼女明日早いから、今日は会えないっつって、だから電話だけしてたら長くなっちゃって」
小野田には、現在溺愛中の彼女がいる。
でれっと鼻の下を伸ばした顔に、これだよと思った。
ぐるん、と来栖に振り向くと、小野田の顔を指差して見せた。
「これだよ! あんたに足りないのコレ!」
「……俺にこの顔をしろと」
私の意図するところはすぐに理解したらしい、だが受け入れがたいのか来栖の顔は複雑そうに歪んでいる。
「気持ちの問題! そういう温度差って伝わるんだって。だから彼女も段々束縛気味になるんじゃないの? あんたから会いたいとか言った? 電話したいとか言う? 言わないでしょ絶対」
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