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口に出さないと。溜めてしまえば内側から自分の体が腐りそうで、ぶつぶつ文句を言いながら、やけくそに歩いていた。
駅前通りまで戻ってきたころには雨に濡れた体は完全に冷えてしまっていて、痛いを通り越して感覚がない。
必死に足を動かし、足早に自宅アパートへと向かう。
不思議だなぁ。ひどく振られたのに、涙が出る気配がない。逆に笑いが込み上げてきて、慌てて顔を引き締めた。
わかってる、最初から上手く行くと思ってなかったからだ。だから悲しいけど、涙が出るほどじゃないんだ。
ゲイの扱いなんて所詮そんなものなのかもしれない。相手が男も女もどちらもいけるやつだっだから尚更か。
差別の対象、嫌悪の目で見られる存在。
堂々と言えない性癖。マイノリティ。
俺はこみ上げる笑いをぐっと我慢しながら、見えてきた自宅アパートに向かって歩くスピードを上げた。その時だった。
「あ、あの……!」
ふと声を掛けられて、びっくりして立ち止った。
チラリと目だけで辺りを見渡す。数人が歩いているが、皆が道端の一か所に視線を向けていて、俺は首を傾げた。
「あの……」
再び声が聞こえてきて、俺は視線を声のほう、通行人が注目しているのと同じ場所へと移動させた。
「ひっ!」
思わず喉から悲鳴が漏れ、慌てて口を手で覆った。
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