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自分が言うなと言われそうだが、そこにはとても酷い様子の男が蹲っていた。
ずぶ濡れの俺よりも酷い状態のその男は、俺以上にずぶ濡れだったがそれ以上に泥に塗れ汚く、髪も髭も伸び放題でボサボサで、よく見れば、着ている服が泥だけでなく、あちこち破れてもいた。
思わず後ずさってしまう程に、その男は酷過ぎた。
浮浪者、路上生活者
そんな言葉が頭の中を過ぎる。
怖いとは思わなかったが、何故こんな状態の俺に声を掛けてきたのかわからず、ただ距離を取るので精一杯だった。
それがいけなかった。同じように男を見ていた通行人らが、慌ててその場を去って行く。面倒事に関わらずに済んだというように、ほっとしたように。
しまったと、気付いた時にはもう遅かった。バチっと、音が鳴るかと思う程に声の主と視線が合ってしまった。
「あの……」
声は先ほど以上に弱々しくなっている。
「助けて、ください……」
ゆっくりと俺に向けて伸ばされる手。
俺はその手を振り切ることができなかった。
「た、助けてって、どうすれば」
振り絞った声が男の耳に到達すると、男の口元が震えたのがわかった。
「食べ物を……」
「たべ、もの?」
「あと、その……」
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