梅雨の時期に

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 迷っているのか、それとも体力的なものなのか。随分ゆっくりと紡がれる言葉に、別の危機感が生まれてくる。  救急車を呼ぶべきか?  やっとはっきりしてきた自分の意識に少し慌てた。急いで男の傍に近寄りしゃがみ、傘を差しだした。 「あと、なに?」    差し出した傘に、男は驚いたようだった。俺の言葉に慌てて、でも意を決したように口を開く。 「あったかい部屋で、寝たい……」    男の手を掴めば、彼は必死にしがみついてきた。  俺よりも頭一つ分は大きいだろう身長なのに、ひどく痩せていて猫背で、なにより冷たい。  ただ、振られた直後の俺にはちょうどよい体温だった。
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