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狭いこの部屋では無理だが、こいつがきちんと部屋を借りればベッドだって置けるし、テレビだって置けるだろう。わざわざ苦しい生活しかできない部屋にいなくてもいい。
決着がつくまでならわかる。なのにそのあともとは……正直、無理だ。俺が無理だ。
「不動産屋のおっさん、ガラ悪そうに見えるけどいい人だよ。ここの物件を教えてくれたのもあの人だ。情に厚いから、事情を話せば今の自分にあった物件を探し出してくれるぞ」
なんとしてでも離れたい。そんな気持ちが出てしまっていたのだろうか。くしゃりと顔を歪ませた根岸の目からぼろぼろと涙がこぼれだした。
「な、なんで泣くんだ!」
こっちが泣きたいと叫びたい。ぐっと本音を飲み込んで言えば、泣きますよと逆ギレされた。
「だって勇さん、俺を追い出そうとしてる!」
「いや、そういうわけじゃねぇよ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないって」
ギっと睨まれてびくりと体を硬直させれば、傷ついた表情を浮かべられ焦る。
なんで焦らなきゃいけないんだと思いつつもこいつがこんな顔をしているのが珍しく、強く言い返すことを躊躇ってしまった。
それが駄目だったんだろう、根岸は無言でコーヒーを一気に飲み干してマグカップを乱暴に片付けたあと、そのまま頭まで布団を被って寝てしまった。
声を掛け辛く、俺も静かに布団へと入るしかなかった。
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