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「いや、だってそうじゃないか。俺だったらお前みたいに人を見下ろすことなんてできないしな。シークレットシューズ履いたって無理だ」
「大丈夫? すごい疲れてるんじゃない?」
仁王立ちだった姿勢を崩し、心配そうにこちらの顔を覗きこんできた根岸を見ていたら、なんかもうどうでもいいかという気持ちになった。
正直、疲れていたんだろう。
心底嫌だったのだ、自分自身が。どうにでもなれという心の声に、素直になって口を開いた。
「俺な、お前から離れたいんだ」
俺の言葉に、根岸が硬直する。
傷ついた顔だ。言葉の意味がちゃんと伝わっている。
「追い出したいんだろって昨日、お前言ってただろ? その通りだよ。追い出したいんだ。いや、追い出さなくてもいい、俺が出て行ってもいいんだ」
体が、心が、自然と軽くなった。
とても静かだ。すぐ傍を走る車の騒音も聞こえない。
根岸の喉仏が上下に動くのを見て、こんなところは男らしいんだなぁと、当たり前のことに感心しながら、口は止まらない。
「どう、して……?」
ゆっくりと口が動くのに合わせて、喉仏も動く。
その器官が性的なものにしか見えないのだから、俺の脳内にはほんと困ったものだ。
「迷惑だった? 俺、なにもできない、人間の屑だから」
「お前は人間の屑じゃない。あの女の言葉は信じるな」
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