夏から秋へと変わり

23/25
前へ
/56ページ
次へ
「じゃあどうして? どうして俺を追い出そうとするの」    最後は尻つぼみになっていた。辛うじて聞こえるほどの声量。  手を差し伸べたくなるような表情と声、雰囲気に、ぐっと耐える。握りしめた手が痛い。 「ゲイ」    ぽつりと、俯いた根岸の頭に向かって零した。  ぴたりと動きを止めた根岸がゆっくりと頭を上げる。上目遣いで、どういうことだとこちらを確認しているようだ。だから俺は重ねて言った。 「ゲイ。同性愛者なの、俺。男にしか興味ないんだよ」    あっさりを装って言えば、根岸は一度口を開き、しかし言葉が出ないようでそのまま閉じた。  目は雄弁だ。信じられないと、嘘だと言ってくれと言わんばかりに懇願してくる。  ズキリズキリと心臓が痛むが、今だけだとぐっと腹に力を込めた。じゃないと立っていられない。 「性的にって意味だぞ、わかるよな」    反応はない。まだ衝撃に思考が回っていないのだろう。  待ってやるほど優しくない俺は畳みかける。 「男だったら誰でもいいってわけじゃないぞ、いっとくけど。だからしばらくならいてもいいって言ったんだ。だけどさ、やっぱり恋しくなってくるわけよ、男だからさ」    同じ男なら、わかるだろ?  口を歪め言ってやれば、びくりと体を震わせた。     
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加