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くしゃりと顔を歪めた根岸の目からは、ボロボロと涙が溢れてきている。昨日と同じ格好のまま、髪の毛もぼさぼさのままだ。
たしか今日もカフェのバイトだと言っていたはずだ。どこかで一晩過ごしたとしても、仕事には行っていると思っていた。
思わず手を伸ばし、頬に流れる涙を拭ってやった。
「なに、泣いてんだよ」
やっぱり放ってはおけないなと、思った。
根岸は言葉を発することができず、俺は、ただただ涙を拭い続けた。
腕が伸びてくる。そのまま俺の背中に周り引き寄せられた。
ぽすりと、その腕の中に包まれた。額で感じる根岸の胸の鼓動は激しくもなく、かといってゆったりと穏やかでもなく。
「勇さん、俺、帰りたい」
嗚咽に混じり、告げられる。
「勇さんのいる部屋に帰りたい」
俺のいる部屋に……
「勇さんじゃなきゃ、無理だよ。一人は嫌だぁ」
その言葉を合図に、根岸の心が決壊した。
うわぁんと大きな声を上げて泣き出した根岸に、何かあったのかと客がドアの窓からこちらを覗き始めた。
マズイ。余計なことを言い出す前になんとかしないといけない。
ポンポンと背中を叩いて宥めるも、泣きに泣いている根岸には伝わらない。
「根岸、うるさい!」
「だって、だって!」
「わかったから! 帰ってきていいからとりあえず泣きやめ!」
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