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仕方なくそう言ってやれば、ますます号泣してしまった。
「泣きやまなきゃ今すぐ捨てるぞ!」
「いやだ!」
小声で脅し、驚いて止まった隙にバックルームへと連行した。
「お前、合鍵まだ持ってるな?」
「う、うん」
「じゃあ先に帰ってろ。俺は五時まで仕事だから」
「ここで待つ」
「迷惑だ。従業員でないやつがバックルームにいるとよくないの、わかるだろ?」
「……わかった~」
渋々頷いた根岸の頭を優しく叩いてやった。
「帰ってきたら、ちゃんと話し合おうね」
大男が、俺を見下ろしてすがりつく。
「……わかった」
捨てられた犬のような目をして、なんとも酷い話だ。
散々だ。もう俺、こいつから離れられないじゃないか。
太陽が昇り始めたばかりの時刻。肌寒さに耐えながら帰宅した。
部屋に灯りはついている。あいつが起きている証拠だ。
不安と怒りと、罪悪感に少しの期待。
心は落ち着かず、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが玄関ドアをゆっくりと引いた。
「おかえり、勇さん」
ふわりと、コーヒーの香りが鼻につく。
ほんのり暖かい室内に、ほっとしてしまった。
同時に、一人が嫌だと声を上げて泣いた根岸の気持ちが痛いほどわかってしまった。
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