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マグカップに口を付けたまま、俺は根岸を睨みつけた。わかってるのかと、お前は何を言っているんだと。
けど、どれも流されてしまう。俺が好きだからという言葉ひとつで。
「両想いだねぇ、勇さん」
「……俺はお前のことが好きだなんて、一言も言ってないぞ」
「わかってるよ」
わかってない。わかっていない。
「わわっ、勇さん、泣かないで」
腕が伸びてきて、夜とは逆に俺の涙が拭われる。
「そんな顔しないでよ、勇さん~」
そういう根岸の顔も、今にも泣きそうな表情だ。
「俺だって、お前を泣かせたかったわけじゃない」
ツンと痛む鼻に、潤む視界。
泣かしたくなかった、泣かされたくもなかった。
嬉しいはずなのに、同時に悲しくて、頭の中が混乱する。
やっと人並みの幸せを手に入れられそうなのに、俺なんかを好きになったら、ごく平凡な、しかし最高の幸せをこいつは逃してしまう。
「馬鹿だ、お前は」
「知ってるよ」
「だから馬鹿なんだ」
「勇さんもでしょお?」
ズバリと言われて、思わず吹き出し笑ってしまった。
「朝起きて、おはようって言えて、パン一枚だけどちゃんと朝ご飯食べられて、お昼はまかないで、帰ってきたら夕飯が食べられる」
マグカップを取られ、床の隅っこに置かれた。
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